13.

 

「えっ、私達が事件の担当から外された…?」
「残念ながらね。 でも勘違いしないで、私たちに非があったわけじゃないわ。 武器の大量密輸事件の
捜査班が、私たちの力を必要としているのよ」
 サイボーグ技術を欲した暴力団。 その動機を探るうち、暴力団同士の抗争の激化が明らかになった。
 私たちは、その裏で暗躍する武器密輸組織の捜査にまわされる事になったらしい。
「ただ、あなたのお姉さんを、私たちの手で捕まえてあげられなかったのが残念だけど…」
「そんな、警部が気にする必要はありません」
 警部さんに頭を下げられて、カズヒロさんが慌てている。
 あの女が記憶を取り戻しているのか定かでないけれど、少なくとも逃亡を続けている限りは、
カズヒロさんとの姉弟関係が明らかになることは無いのだろう。
 
 
「はい、身体機能のチェック終わりました。お疲れ様です」
 私たちの全身に差し込まれたコードが外されていく。
 下腹部の一箇所以外、全て開かれていたハッチを閉じて、立ち上がった。
「ありがとう。 結果はどうだった?」
「お二人とも、異常ありません。 全パーツ正常に機能しています」
「全パーツ、ね…」
 警部さんが呟く。
「え、何でしょうか?」
「私の下腹部のあのパーツの件よ。 私に無断で取り付けた理由、ずーっとうやむやになっていたけど…」
「あ…あれは、その、」
「今日こそ答えてもらうわよ」
 警部さんが、ずいとカズヒロさんの前に立ちはだかった。

 

 

 
 

 警部さんが機械の身体に生まれ変わったとき、カズヒロさんが警部さんに人工性器を取り付けた理由。
 そんなのは一つしかない。 男だったら、好きな人と交わりたいというのは自然な感情だし、
警部さんがそれに気付かないはずは無い。
 
 暫しの沈黙。
 二人の邪魔をしてはいけないと、私が席を外そうとしたとき、警部さんが口を開いた。
「…そんなに言う度胸が無いの?」
 “好きです”って告げてしまえばいいのに。 そう警部さんの目が言っている。
「いえ、そんなことは無いです! でも、僕には言う資格がありません…」
「それは、あなたのお姉さんが犯罪者だから?」
「ただの犯罪者じゃありません。 サチさんから人の身体を奪った挙句、警部が自分から身体を捨てる遠因に
なった女ですよ?」
「私はそんな事気にしないわ。 もちろんサチだって、あなたに不快な感情は一切抱いていない」
 警部さんの言葉を受けて、私もカズヒロさんに大きく頷いてみせる。
「それでも、僕自身が納得できないんです」
 絞り出すようなカズヒロさんの声。
「たとえ気にしないと言われても、僕の方が勝手に負い目を感じてしまって…
警部と、その、そういう関係になれる自信が無いんです…」
 そう言って、カズヒロさんは俯いてしまった。
「そう… 仕方ないわね。 本当は、あなたから言って欲しかったんだけど」
「…?」
 警部さんは、覚悟と恥じらいの混じった表情を浮かべていた。

 

 

 

「私は、あなたのことが、好きなの」
 そう言って、警部さんはゆっくりとカズヒロさんを抱きしめた。
「えっ……あ、あの…!?」
 カズヒロさんは、顔を真っ赤にしてパニックに陥っている。
 
「私をサイボーグにしろって命令しておいて、今更こんな事を言うのは我がままだって分かってる。
でも、私、ときどき怖くなるの…」
 警部さんとは思えないような、か細い声。
「人の身体だったときは、怪我をしても放っておけば自然に治ったわ。 でも、この身体は
決して自分から治癒してくれない。 それどころか、放っておいたら、パーツはどんどん磨耗して
私の身体はガラクタになってしまう…」
「………」
「警部さん…」
 あの警部さんがそんな悩みを抱えていたなんて…私にも打ち明けてくれなかったのに。
 カズヒロさんが羨ましかった。
「お願い。 あなたが嫌なら、恋人でなくてもいいから、整備士としてでもいいから…ずっと私と一緒にいて」
「は、はい…もちろん、です」
 カズヒロさんは真っ赤な顔で、かくかくとぎこちなく頷いた。

 

 

 

 抱擁の後、二人とも放心したように立ち尽くしていたけど、先に復活したのはやっぱり警部さんのほうだった。
「それじゃ、私とサチは仕事に戻るわね」
「あ、はい…」
 二人で部屋を出ようとしたとき、警部さんが思い出したようにカズヒロさんに言った。
「そうそう、言い忘れていたけど…もし、私と縁を結ぶ事になったら、そのときはサチも一緒によろしくね」
「は…?」
 カズヒロさん、理屈が全然飲み込めていない。
「だって、私とサチは母子だもの」
「……えっ!?」
 カズヒロさんの表情が、一瞬で放心から驚愕に変わる。
「知らなかった? だってサチは改名したとき、苗字も私と同じ“アズマ”に変えてるじゃない。
私には、サチを養子に取ってくれる両親は存在しないんだから、残る可能性は一つでしょう?」
「でも…それ、出来るんですか?」
「養子縁組は、一歳でも年齢が違えば可能なの」
「は、はぁ…」
 さっきからカズヒロさん、平常心に戻る暇がない。 
 
 けれど、その驚きや戸惑いで混沌とした表情の中には、確かに喜びの色が混じっていた。
 
 
 技術捜査部を去った後、廊下を歩きながら、
「警部さん。 カズヒロさんと本当の恋人になれても、私とはずっと今まで通りの関係でいてくれますよね?」
 思いっきり甘えた声で、私は警部さんにぴったりと寄り添った。
「そ…それは、エッチな事をするって意味…?」
「そんな人聞きの悪い…母子のスキンシップですよ」
 ちょっとだけ嫉妬を込めて、警部さんを困らせてみた。

END