「さすがは若き天才技術官ね。(“若き”といっても、私のほうが年下だけど)
これならアイツと互角、いえ、それ以上に渡りあえるわ」
「はい…しかし警部、本当にこれを実用化するおつもりですか?」
彼は不安げな表情で私に振り返った。
「もちろん、次の犯行までに実用化させるわ。さっそく志願者を募らないとね」
「志願者なんている筈ありませんよ。だって実験台になった挙句、人の身体では無くなってしまうんですよ?」
「大丈夫、私がいるわ。私が志願者第一号よ」
さらりと、私は秘めていた決意を明かした。
しばしの沈黙があった後、彼は暗い顔で口を開いた。
「やっぱり…最初からそのおつもりだったんですね」
「気付いていたの?」
「警部はいつもそうですから。どうしてそう簡単に自分の身を危険にさらしたり、
肉体を差し出したり出来るんですか?」
「私は天涯孤独だから。私の身に何かあっても、誰も悲しまなくてすむでしょう」
私の家族、両親と妹は、私が三歳のとき、自宅に押し入って来た強盗の銃で命を落とした。
強盗犯の供述によれば、私の家が狙われたのは、「たまたま目に付いたから」だという。
私は実感した。人はどんなに清く正しい生き方をしていても、運が悪いだけでたちまち不幸に陥る。
人生は不公平なのだ。
だから、私は決めた。警察官になって犯罪と戦う事で、その不公平を少しでも正すのだと。
これは誓いでもあるし、家族を失った私が生きる支えでもある。
だから、そのために身体を機械に変えてしまう事くらい、なんでもない。
私は改めてモニターの中の図面を見つめた。