5.

 

 腹部、背面、脚部、腕部、後頭部。
 全身の各所にある整備用ハッチが一斉に開き、機械と回路の詰まった私の内部をさらけ出す。
 試験運用機である私は、毎日一回メンテを兼ねたチェックを受ける事になっている。
 正直、この日課は好きではない。
 捜査に没頭すれば忘れていられる身体の事を否応無しに実感させられるからだ。

 アイツとの“初対決”から一週間経った。
 結果は黒星。おまけに私の身体は右腕全壊、肩から胸の電子機器丸焦げという有様。
 幸い脳に別状は無く、パーツを交換するだけで私の身体は元通り修復できた。
 でも、犯人逮捕に失敗したという事実、そしてアイツの残した言葉が私を責め立てる。
『私の…道具でしかない存在の苦しみなんて、あなたには…!』
 あれは本心だ。私の刑事としての勘がそう言っている。
 つまり、黒幕は別にいる。アイツも被害者だったのだ。
「それなのに、私は、なんて残酷な言葉を…」

「あっ、あの、警部」
 機能チェックを終え、捜査本部へ戻ろうとする私を、カズヒロ技術官が呼び止めた。
「なに?」
「いえ、警部がメンテ中ずっと悩んでいるように見えたので。その、ひょっとして後悔してるんじゃないかと…」
「後悔って、この身体のこと?」
 思わず肩をすくめる。
「意味の無い質問はしないで。後悔してたら何だっていうのよ。元の身体に戻してくれるの?」
 もちろん、元の身体に戻るなんて出来るわけが無い。
「い、いえ…すいません」
 黙ってしまった部下に背を向けて、私は整備室を後にした。

(何言ってるのよ私…彼は心配して声をかけてくれたのに)
 やっぱり、彼の言う通り私は後悔しているのだろうか。あれだけ後悔しないと誓ったのに…

 

 

 

「あ、警部! お待ちしてました」
 廊下に出ると、部下の刑事がなにやら興奮した様子で走り寄ってきた。
「どうしたの、何か進展があったの」
「はい、重要な報告が二点。一つは一連の石板についてです」
 差し出された報告書を受け取る。
「ヤツの集めている石板は、超古代文明の遺物と言われているそうです」
「超、古代文明…?」
「なんでも、先史時代に現代をも凌駕するテクノロジーで世界中を支配していた、とか。
それでですね…あの石板にはその文明が生まれてから繁栄を極めるまでの物語が綴られているんだそうです。
例えば、一枚目は“狩りをする者”二枚目は“耕す者”そして、文明が発展してくると“商う者”…」

「ストップ。要点だけ話してくれる?」
「あ、はい。結論を言いますと、あの一連の石板は全部で十二枚存在するんだそうです」
「十二枚!? じゃあ、前回が十一回目の犯行だから」
「そうです。残る一枚、“覇王”の石板で最後です」
 つまり、おそらく次がアイツの最後の犯行になる。
 アイツは自分のことを「道具」だと言った。用済みになった道具にはどんな運命が待っているのだろうか。
「で、警部、もう一つの報告ですが…」
 部下が封筒を手渡す。
「ヤツからの予告状が届きました。狙いは覇王の石板だそうです」