『だったら、せめて私は…私の脳は置いてってよ。 身体なんか無くてもいいから、
ガラス瓶の培養液の中でもいいから、私をあの女のところに連れて行かないで!』
アイツの気持ちは痛いほど伝わってくる。 でも、私は心を鬼にして言わなければならなかった。
『…お願い。この作戦にはあなたの力が必要なの』
『そんな…なんで、どうして!?』
『残酷な要求だって事は承知しているわ。 でも、あの女を逮捕できるのは私達しかいない。
立ち上がらなければ、あなたは一生あの女の存在に怯え続ける事になってしまうわ』
『もうイヤっ!! 私は何も悪くないのに、もう散々ひどい目に遭ってるのに、
どうしてこれ以上辛い目に遭わなくちゃいけないの!?』
ただ人生を呪うことしか出来ないアイツが、昔の私に…あまりにも似ていたから、
『甘ったれないで!!』
『えっ…?』
『確かにあなたは悪くない。 でもね、人生はそんな事で容赦してくれないの。
いくら自分の不幸を神様に訴えたところで、なにも好転しないんだから!』
思わず、最も酷な事実を告げてしまった。
『………』
『ごめんなさい…警察官が口にしていい台詞じゃなかったわ…』
『いえ、べつに…』
私の中に気まずい沈黙が流れる。
『…場所を変えましょう』
『えっ?』
窓を開け、アルミのサッシに片足をかける。
「カズヒロ技術官、ちょっと出かけてくるわね」
「は? 警部、ちょ、ちょっと突然どこへ…」
ぽかんと呆気にとられた彼を置いて、窓から署を後にした。