4.

 

 最初は、錯覚だと思った。
 刑務所から拉致された“あの女”の手がかりを捜し始めて、すでに一ヶ月。 降りしきる夕立の中、
たまたま近道のために横切った産廃処分場で、私はゴミの山に埋もれる私自身を見た気がした。
(気のせい…よね)
 これだけのガラクタがあれば、偶然どこか一箇所くらい、遠目には全身義体に見えるような
構図が生まれてもおかしくないだろう。 雨で視界が水煙にぼやけていればなお更だ。
 でも、私はやっぱり見間違いの一言で片付けられず、ゴミの山を振り返った。
 
 ゴミの群れを走査する私の視線が一点で止まる。
「…!!」
 泥土と廃油にまみれ、廃棄物に同化しつつある小柄な少女が、確かにそこに存在した。
「ちょっと! ねぇ、あなた人間でしょう!?」
 私はその子に駆け寄ると、重い金属の身体を助け起こした。
「生きてる!? 生きてるなら返事をして!」
 私の呼びかけに、その子は何も反応してくれない。 うっすらと開かれた義眼は死んだように動かなかった。
(とにかく、早くこの子をカズヒロさんの所に!)
 いまにも壊れそうなその子の身体をしっかりと抱いて、私は背中のブースターの出力を限界まで引き上げた。
 
 人をサイボーグ化する技術を持っているのは、技術捜査部のカズヒロさんを除けば世界にただ一人、
刑務所から拉致され、私達が捜している“あの女”しかいない。
 私の刑事としての初手柄は、とても悲しい手がかりの発見だった。

 

 

 

 捜査会議が終了した後、私と警部さんは真っ直ぐに技術捜査部へ向かった。
 カズヒロさんに、あの子の応急処置の結果を聞くためだ。
「サチさんの発見した少女ですが…」
 説明するカズヒロさんの顔が暗く沈んでいく。
「彼女をサイボーグに改造した人物は、やはり…刑務所から拉致された、“あの女”かと思われます…」
 
 一月前、カズヒロさんがあの女のことを「姉さん」と呟いたのを、私は聞いてしまった。
 それが本当なら、少女をあんな姿にした挙句にゴミのように捨てたのは、カズヒロさんの姉ということになる。
もちろん、私から人の身体を奪ったのも。
 
「カズヒロ技術官、結論を先にお願い。 あの子は生きてるの? 助かるの?」
 腕を組んだ警部さんが先を促した。
「あ、すみません……とりあえず命に別状はありません。 ですが、身体に何らかの異常があることは確かです」
「だから、捨てられたっていう事でしょうか。 使い物にならないからって…まるで道具のように」
 あの子は助かるんだと安堵した途端、私は怒りがこみ上がってくるのを感じた。

 

 

 

 一通りの打ち合わせが終わり、捜査に戻ろうと席を立ったとき、
「ああ、そうだわ、カズヒロ技術官。 一つ言っておきたい事があるの」
 警部さんが、さりげなく口を開いた。
「確か、あの女は記憶喪失になっていたわね。 にもかかわらず、あの女は少女を一人 機械にしてしまった。
つまり、女の記憶は戻ったと考えるべきね」
 そう言いながら、警部さんは真っ直ぐにカズヒロさんを見つめている。
「あ、あの、それが何か」
「つまり、今度こそ判明するかもしれないという事よ。 あの女の氏名とか、家族関係とか、ね」
 カズヒロさんが息を呑むのが、分かった。
 数秒の沈黙。
「結論を先に言うとね、カズヒロ技術官。 あなたは何も心配しなくていいわ」
 不意に、警部さんの顔が優しくほころんだ。
「え…?」
「私は前から知っていたんだから。 今後 何が判明しても、私は今まで通りあなたの味方でいてあげるってこと」
 それだけ言うと、警部さんは私の手を引いて技術捜査部を後にした。
 
 
「サチ、あなたには話しておかなければならないんだけど」
「知ってます。 あの女はカズヒロさんのお姉さんなんですよね。 本人の独り言が聞こえちゃいました」
「そう…彼も迂闊ね、自分で作った聴覚センサーの性能を忘れるなんて」
 警部さんと私は顔を見合わせて苦笑した。
「…で、どう? もう彼とは今までのように親しく付き合えない?」
「いいえ、そんな事無いです。 その肉親が誰であっても、カズヒロさんはいい人です」
「よかった…サチ、ありがとう」
 警部さんは私の手をとり、自分のことのように喜んだ。