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「あ、あれ?」
 ここはどこなんだろう。
 病室に似た質素な内装だけれど、床にはスパナとかドライバーとか、工具が散らばっている。
 私は夏の日が差し込む窓際のベッドに寝かされていた。
「あ、身体が…動く」
 上半身を起こして、部屋をぐるりと見渡してからようやく気が付いた。
(一体なんで動けなかったんだろ…)
 その答えを求めるように、自分の身体へ視線を落とすと、
「……え? なに、これ……?」
 私の身体が、真っ青に染まっていた。
 胸も、手も、足も、指先まで青い金属光沢を放っている。
「えっ…えっ…!?」
 その青い指で、全身をまさぐる。 返ってきたのは、無機質な金属の感触だった。
 ちょっぴり膨らんでいた胸も、水泳で引き締まった脚も。 私の全てが硬い金属になってしまっていた。
「なにが…どうなって…」
 ふと、私はあの記事を思い出した。
 何の罪もない少女を機械の身体へと改造し、窃盗行為を強要していた女が刑務所から消えた事件。
 そう、この私の身体は…数年前にガジェットという名で盗みを働いた少女の身体と、そっくりだった。
「まさか、そんな…私が、ガジェットに…!?」
 
 不意に、隣の部屋から女の声が聞こえた。
(まさか…)
 扉から犯人の女が現れて、お前は私の道具になったのだ、と告げる…その恐怖に耐えられなくなった私は、
 逃げ出そうとベッドから跳ね起きた。 その瞬間、
「!!」
 あの痛みが全身を駆け巡った。 まるで鉤爪が内側から身体を引き裂くような感覚。
 身体がベッドに倒れこむ。 身体が動かないんじゃなくて、痛くて動かせない。
 その音を聞きつけたのか、声の主がドアを開けて部屋に入ってきた。
「どうしたの、大丈夫!? どこか痛いの!?」
 それは、真っ黒い、私とそっくりな身体の少女だった。

 

 

 

 廃棄されていた少女、ミズサワ・ユカリさんが意識を取り戻した事で、事件は一気に解決に向かうと思われた。
 ところが、ユカリさんは、全身の激痛でほとんど証言が出来ない状態だった。
「その原因は、金属部と生体部のサイズ不一致と分かりました」
 カズヒロさんがホワイトボードを前に解説している。
「私のサイボーグ技術では、脳以外を全て機械に置き換えてしまいますが、あの女の技術では、補助的な
動力源として、全身の要所要所に人間としての筋肉を利用しています。 
 つまり、体内に主動力源や機械類、体表に金属外骨格、その間に筋肉がサンドイッチされた構造なんですが…
これらのサイズが不一致なために、全身の筋肉が金属パーツに圧迫され、痛みの原因になっているのです」
「う…わ…」
 身体の中に埋め込まれた機械の突起が筋肉に内側から食い込み、外からは金属の殻がその筋肉を内側へと
締め付ける。
(あの女に改造された私も、一歩間違えればそうなっていたのだろうか)
 想像するだけでぞっとしてしまう。
 
「カズヒロ技術官、なぜその手違いが生じたか、分かる?」
 警部さんが勤めて冷静に質問する。
「おそらく人違いかと、思われます。 本来改造されるはずだった少女の身体に合わせてパーツを製造したものの、
手術するときに、間違えてユカリさんにそのパーツを埋め込んでしまった、という事かと…」
「そんな…」
 理不尽だ、人違いなんて。 そんなの、拉致されて無理矢理 改造されてしまった私と何も違わない。

 

 

 

「となると、事を急がなければならないわね」
 警部さんが立ち上がり、カズヒロさんに代わってホワイトボードの前に立つ。
「急がないと、人違いのおかげで助かった少女まで、本当に改造されてしまう事になるわ」
「あ…確かにそうですね」
「でも、犯人やその少女の居場所は…」
「目星は付けたわ、県内のJ大付属病院よ。 改造手術が出来るだけの技術と設備を備え、かつ、
ここ一ヶ月間に“ミズサワ・ユカリ”という名前の子が救急車で搬送された記録があるのはここだけよ。
…もっとも、この県内と限っての話だけど」
「ちょ、ちょっと待ってください、それじゃ捜査令状は取れませんが…」
「責任は私が取るわ。 少女一人の肉体が失われてからでは遅いのよ」
 慌てるカズヒロさんをよそに、警部さんは一人でJ大付属病院に乗り込む気だ。
 
「警部さん、私が一人で行きます」 
「サチ…?」
「私なら、警察の介入と覚られないように隠密捜査することが出来ます」
「でも…」
「私がこの身体に…盗人であるガジェットの身体に戻ったのは、そのためです」